国スポで表彰台に乗るには?小さく非力な私が見つけた「がんばらない」戦略【カヌーワイルドウォーター】

カヌーワイルドウォーターで国スポ(国民スポーツ大会)に出場し、さらに表彰台を目指す——そう考えたとき、多くの人は「上位の選手は、特別な才能や強靭な体を持っているんだろう」と想像するかもしれません。

でも、私はちょっと違うと感じています。私はカヌーワイルドウォーターを20年続け、国体で何度か3位まで上がってきました。けれど、もともと体が大きいわけでも、力が強いわけでもありません。むしろ「小さくて非力な選手」です。

この記事では、そんな私が表彰台にたどり着くまでに何を考え、どう工夫してきたのかを、できるだけ正直にお伝えします。一般論ではなく、実際に私がやってきたことです。

私の出発点——カヌーポロからの転向

私のカヌー歴は、高校3年間のカヌーポロから始まりました。カヌーポロは、カヌーに乗りながらバスケットボールのようにボールを奪い合う競技です。ストップ&ゴーの連続で、とにかく瞬発力が求められます。私は「超」がつくほどの瞬発型の選手として、卒業後にワイルドウォーターの世界へ入りました。

実は、カヌーポロからワイルドウォーターに転向した選手は、私を含めても国内に3人ほどしかいません。多くの選手はカヌースプリント競技から入ってきます。スプリントは競技人口が多く、その漕力がワイルドウォーターにも活きるからです。漕ぎ方も、スプリントとワイルドウォーターは近い。

逆に言うと、ポロ出身の私は「漕ぎ」でかなり苦戦しました。始めた頃は、体力・筋力・技術、どれをとっても長年の選手に敵わない。そこからどう這い上がったのか。まずは、ポロ出身だからこその"武器"の話からです。

カヌーポロが授けてくれた3つの武器

ハンデばかりに見えたポロ経験ですが、ワイルドウォーターで効く武器も与えてくれました。

武器1:恐怖心がない

カヌーポロでは、試合開始の合図とともに、両端の選手がボールめがけて全力でダッシュし、正面から突っ込み合います。ギリギリで相手の艇との衝突を避ける——これを散々やってきました。おかげで、激流の中や岩の多い場所でも、私は臆さず練習できます。みんながミスを恐れて減速する場面で、私はむしろ加速できる。これは大きな差になります。

武器2:思った場所に艇を置けるターン技術

スイープ(曲がるための漕ぎ)と、艇の傾けの"限界の幅"が、私は他の人より広いです。曲がりにくいワイルドウォーター艇でも、狙った場所にコース取りができます。恐怖心のなさと合わさると、激流コースで大きく効いてきます。

武器3:ロールができる

ロール(沈んだ艇を起こす技術)は習得自体が難しく、ワイルドウォーター艇は形状的に特にやりにくい。でもポロで散々やってきたので、私はすぐにできました。レース中に落ちてしまえばロールしても勝ちは厳しいですが、泳ぐよりはるかにロスが少ない。公式練習で思い切ったチャレンジができるので、練習の質も上がります。

ちなみに、ロールができないままトップに立つ選手もいます。その人たちは「絶対に落ちない技術」を極めています。どちらの道もある、ということです。

たった一つの、しかし決定的な弱点

一方で、ポロ出身の弱点もはっきりしています。漕ぎが長距離に向いていないのです。

ピッチ(漕ぐ回転)を上げるのは得意でも、長く漕ぐとすぐにバテます。スプリントの200mでも、私には長く感じる。全力でダッシュし続けられるのは、せいぜい40mほどです。漕ぎのスピードで勝負している私にとって、これは決定的な弱点でした。では、この弱点を抱えたまま、どうやって表彰台まで行ったのか。ここからが本題です。

「川を読む」ことが、非力な私の最大の武器になった

答えは、力ではなく「川の理解」でした。

川の読み方は、関東のトップ選手に徹底的に教え込まれました。それに加えて、近所の小さな川を眺めては「もしこの川が大きなサイズになったら、自分はどこを通るだろう?」と考える。このイメージトレーニングを、とにかく数多くやりました。

もともと艇の操作は得意です。そこに「川を読む力」が加わると、大きなアドバンテージが生まれました。川の流れを理解すると、自分が大して力を使わなくてもタイムが削れていく。どれだけ流れを理解し工夫できるかでタイムが変わる——ここが、私が思うワイルドウォーターの一番の魅力です。

漕ぎを"作り直した"——短距離型のまま長く漕ぐ

川を読むだけでなく、漕ぎそのものも見直しました。

毎日1〜2時間、ゆっくりと漕ぎながら「パドルはどう使えば効率的か」「身体はどう動かせば最大の力が出せるか」を研究し、"大きな漕ぎ"へと作り変えていきました。

私は超短距離型の身体です。だからこそ、一漕ぎの中で力を出すタイミングをコントロールすることで、短距離型のまま長い距離を漕げるように工夫しました。

メンタル——気合ではなく、笑顔で会場を味方にする

ここは、たぶん多くの選手と一番違うところです。

国スポでは、どの選手も気合を入れ、誰も寄せ付けない覇気を出しています。その中で、私は終始ニッコニコしています。陸の上で気合を入れると、それだけで疲れてしまう。だから私は、表情から心をコントロールします。

会場には、近所の子供たちが学校や保育園の単位で応援に来てくれることがあります。挨拶をして、お喋りをして、仲良くなる。するとみんなが応援してくれます。スタート地点ではカメラに抜かれて大型ディスプレイに映ることもあるので、できる限り手を振ったりガッツポーズをしたり。会場が盛り上がって、楽しんでくれる。そうすると不思議なもので、漕いでいる最中も、他の選手より応援してもらえている気がするんです。辛い場面でも、なんとか歯を食いしばって漕げる。これが私のメンタル術です。

練習は"ピクニック"——がんばらないから、うまくなる

練習も、たぶんイメージと違います。やることは至ってシンプル。1日1〜2時間、富士川を3km漕ぎ上がって、3km下る。それだけです。ただし、ポイントは「なるべくゆっくり漕ぐ」こと。

ゆっくり漕ぐと、流れを受けたときの繊細な力の影響を感じ取れます。これが、頑張って漕いでしまうと艇が安定してしまい、傾けで対処する感覚が育ちません。さらに、心拍数を計りながら120を超えないように漕ぐと、ほとんど進みません。だから「速く進めるには、漕ぎ方を工夫するしかない」状態になる。いい漕ぎができているときは、心拍を上げなくてもスムーズに漕ぎ上がれます。

ゆっくり漕ぐと、艇の向き・傾け・重心・パドルの使い方を、何度も試行錯誤できます。脳にも酸素が回るので、創意工夫が進む。逆に、必死に追い込む練習をしてしまうと、漕ぎの改善ができなくなるんです。3km上って、3km下る。ピクニックに行くように、軽快に。そう思えると、毎日でも「遊びに行こうかな」という気分でやれます。

フィジカルは"遊びの副産物"

最後にフィジカルですが、これはもう、ピクニックの副産物くらいの位置づけです。特別な筋トレをガッツリやるわけではありません。強いて言えば、その上でカヌーポロをやって遊んでいるくらい。

私はカヌー体験の仕事をしているので、デスクワークの人に比べれば、そもそもカヌーに乗っている時間が長い。「トレーニング」と言うと、私はモチベーションが下がってしまう性分なんです。だから、思いっきり遊ぶ。そういう気持ちでいると全力で漕げて、結果的に、自分の中で一番いいフィジカルになっています。

まとめ——がんばらない強さ

こうして振り返ると、私が表彰台に乗れた理由は「強かったから」ではありません。むしろ、小さく非力だったからこそ、川を読み、漕ぎを工夫し、笑顔で会場を味方につけ、遊ぶように練習してきた。その積み重ねでした。

もちろん、これは私のやり方の一つです。ロールを使わず「絶対に落ちない」道を極める選手もいる。正解は一つではありません。でも、「体が強くないから」「才能がないから」とあきらめる必要はまったくない、ということだけは断言できます。

国スポの表彰台は、特別な人だけのものではありません。川を好きになって、工夫を楽しめる人のものです。

体験・合宿のご案内

峡遊隊では、ワイルドウォーターの体験や合宿を受け付けています。「競技として本気でやってみたい」という方も、「まずは川で漕いでみたい」という方も、お気軽にお問い合わせください。一緒に川で遊びましょう。なお、ワイルドウォーターの全体像はカヌーワイルドウォーターの始め方でも紹介しています。

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